物理

スキージャンプはなぜ向かい風が有利なのか?【おもしろい流体力学】

こんにちは。ケンチーです。

今回の記事では、冬季オリンピックの目玉種目であるスキージャンプの謎に迫っていきたいと思います。

斜面を勢いよく滑っていって、タイミングよく大ジャンプ。男子だと200メートル以上飛ぶ選手もいます。

そんなスキージャンプ。追い風の方が、風に乗って飛んでゆくことができそうですが、実は向かい風の方が有利なのです。

なぜでしょうか。流体力学をつかって分かりやすく説明していきましょう。

ボールを遠くに飛ばすことを考えてみる

まずは簡単なモデルとして野球ボールのような球体で考えてみましょう。

ボールを空中に投げるとボールには「重力」、「空気抵抗力」という力がかかります。

向かい風と追い風とでは、ボールにかかる空気抵抗力が変化します。

もちろん追い風のときに空気抵抗が小さくなり、向かい風のときに空気抵抗は大きくなります。

2つの状況を重ね合わせてみると、違いが分かり易いです。

青色の追い風の場合の方が遠くに飛んでいることが分かります。

ボールを遠くに飛ばそうとする場合はやはり、追い風の方が有利ですね。

ここで気づいて欲しいことが1つあります。

ボールの高さはどの場合でも、同じ高さになっているということです。

これはボールにかかる重力はどの場合でも変わらないので、このような現象になるのですが、スキージャンパーの場合、これがキーになるので少し覚えておいてください。

では、スキージャンプの場合は?

では次に本題、スキージャンパーの場合で考えてみましょう。

ジャンパーにもボールと同様に「重力」と「空気抵抗力」がかかります。

しかし、これだけではボールと同じく追い風が有利ということになります。

では、ボールとジャンパーの違いは一体なんなのでしょうか。

それは「揚力」です。

実はスキージャンパーには揚力という上向の力がかかっているのです。

なぜボールには揚力がなくて、スキージャンパーには揚力があるのか。

この謎には空気の流れが答えてくれます。一緒に見ていきましょう。

空気の流れを見てみよう

揚力発生の理由は空気の流れ、と言われてもピンと来ませんね。

ボールとジャンパーの周りの空気の流れを比較してみましょう。

空気のような流体が物体周りを流れる時、物体の形に沿って流れようとする性質があります。

これをコアンダ効果といいます。

コアンダ効果については、上の記事で詳しく解説しているので、詳しく知りたい方はご覧ください。

このコアンダ効果によってボールとジャンパー周りの空気の流れは次の図のようになります。

両方ともコアンダ効果によって、物体の周りを沿うように流れています。

注目したいのは、物体の周りを流れ終わった後の流れです。

方向に注目してみると、ボールの周りを流れた後は、流れの方向は変わっていません。

しかし、ジャンパーの周りを流れた後の空気の流れは、下向きに方向が変わっていることが分かります。

これはジャンパーが少しだけ空気の流れに対して、迎角と言われる角度をとっている為です。

なぜ揚力が発生するのか

ボールとジャンパーのそれぞれの流れを可視化してみました。

ではなぜ流れの方向が変わるジャンパーの場合だけ、揚力が発生するのでしょうか?

その理由はズバリ「作用・反作用の法則」です。

聞いたことのある人も多いのではないでしょうか。

流体力学だけでなく、力学全般で用いられる法則です。

先ほど説明した通り、ジャンパー周りの空気の流れは、横向きだったものが、斜め下方向へ流れの方向が変化しています。

これは、ジャンパーが空気に対して、下方向の力を加えたということになります。

なにも力が加わっていないのに、空気の流れの方向が変わるということはありません。

そして作用反作用の法則により、ジャンパーにも同じだけの力が上向きに与えられるのです。

これが「揚力」の正体です。

ジャンパーの運動を考えてみる

ボールとジャンパーの違い。それは揚力の有無であることの説明をしてきました。

それでは揚力があることで、なぜ向かい風が有利になるのかを考えましょう。

向かい風の場合と追い風の場合でそれぞれの力がどのようにかかるか図示しました。

空気抵抗力は向かい風の方が大きく、重力はどちらも変わらないことはボールで説明した場合とまったく同じです。

揚力は向かい風の方が大きくなります。向かい風の方が、空気に与える下向きの力が大きい為です。

では、2パターンの運動を比較してみましょう。

簡単にシミュレーションすることで上記のような結果となりました。

明らかに向かい風の場合が一番飛距離が出ており、逆に追い風の場合が飛距離が出ていません。

向かい風の場合には、空気抵抗力が大きくてスピードが遅くなっても、揚力によってなかなか地面に近づきません。

逆に追い風の場合は、スピードは出ても、揚力が小さいので、すぐに地面に近づいてしまいます。

スキージャンパーとボールを比較したときに、有利な風の方向が違うのは、上方向の力「揚力」によるものだったのです。

まとめ

いかかでしたか。

スキージャンプではなぜ向かい風が有利なのかを解説していきました。

揚力は、飛行機を飛ばしたり、風車を回したりと、なくてはならない存在です。

他の記事でも揚力について紹介しているので是非ご覧ください。