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なぜ回転数の多いストレートは伸びるのか?【おもしろい流体力学】

こんにちは。ケンチーです。

日本の野球界には、藤川球児投手やダルビッシュ有投手のように「ノビのあるストレート」と言われる球を投げる選手がいます。

彼らは回転数の多いストレートを投げるといわれていますが、ではなぜ回転数が多いとストレートが浮き上がって見えるのでしょうか?

そこで今回の記事では、「おもしろい流体力学」シリーズの第一弾として、「回転数が多いストレートはなぜ浮いているように見えるのか」という誰もが思ったことのある不思議を理系大学出身のケンチーが簡単に解明していきたいと思います。

まず静止したボールにバックスピンを与えた場合を考える

まずボールが宙に浮いたまま静止しているとし、その状態のボールにバックスピンをかけてみましょう。(下図)

すると、ボールの周りの空気もボールの回転に引っ張られて、同じ方向に空気が流れます。(下図)

次に無回転で投げたボールを考える

次に、ピッチャーがホームに向かって無回転のボールを投げたとします(下図)

すると空気はボールの周りを覆うように流れていきます。(下図)

バックスピンで投げた球を考える

上記2つをあわせた「バックスピンで投げた球」の周りの空気の流れを考えてみましょう。

下図の左側が静止したボールにバックスピンをかけた場合の空気の流れ。
右側が無回転のボールを投げたときの空気の流れです。

バックスピンのボールを投げた場合の空気の流れは、上図の2つの流れを足し合わせたものとなります。

足し合わせてみると、ボールの上側では流れが強め合うため流れの速さ(流速)が大きくなり、逆に下側では双方の流れが弱め合い、小さくなっていることが分かります。(下図)

流速の違いがなにを生む?

ボールをバックスピンで投げることによってボールの周りを流れる空気の速度(流速)は、下図のようになることがわかりました。

では、なぜこの流速の違いが浮き上がるストレートを生み出すのでしょうか?

それは空気に遠心力が働き、ボールの上側と下側の圧力の差を作り出すからです。

遠心力とは、円運動をする物体が円の中心とは逆方向に受ける力のことです。

クルマに乗っていて急カーブを曲がるときに、曲がる方向とは逆向きに体が倒れていくことはありませんか?

その遠心力が、ボールの周りを流れる空気にもかかるのです。

そして、速度が速ければ速いほど、遠心力の大きさは大きくなります。(下図)

ボールの上側にある空気は、大きい遠心力によってボールから離れていきます。

逆に、下側の空気は小さい遠心力しかかからないので、比較的ボールの近くに留まっています。

よってボールの下側の空気のほうが、上側の空気よりも密度が大きいという状況が生まれます。

そしてその密度の違いがそのまま圧力の違いとなります。(下図)

よって圧力による上側からの力と下側からの力では下側からの力が強いので、ボールに上向きの力(揚力)がかかり、ボールが浮き上がるように見えるのです。(下図)

まとめ

以上のように、バックスピンによってボールに上向きの力(揚力)がかかることが分かりました。

藤川球児投手やダルビッシュ有投手の投げる球はバックスピンの回転数が多いため、ボールの上側と下側の圧力差がより顕著に表れ、大きな揚力を生み出します。

そのため、彼らのボールは浮き上がって見えるのです。

しかし実際には、ボールには重力という下向きの抗えない力がかかっており、実際に浮いてくることはありません。

あくまでも「浮き上がって見える」のです。