物理

浴槽から水が無くならない?浴槽のジレンマ【おもしろい流体力学】

こんにちは。ケンチーです。

本記事は水を出しっぱなしにしている浴槽から水がなくならない理由を誰にでも分かりやすく解説していきたいと思います。

なお、本記事では「粘性」について考慮していませんので、ご承知ください。

水を出しっぱなしにしている浴槽の水はなくならない?

満パンの浴槽の栓を抜いてみる

まずこんな場合を考えてみましょう。

浴槽が満パンで300[L]あるとします。この状態で栓を抜いてみると…

5分後に浴槽は空っぽになりました。

5分で300L減ったので、排水量は

300[L] / 5[min] = 60[L/min] になります。(min:分)

蛇口から水を出してみる

ではこの浴槽に水を入れて行ってみましょう。

空の状態から10分後に満パンになるように水を流します。

10分後に浴槽は満パンになるので、流入量は

300[L] / 10[min] = 30[L/min] になります。

排水と流入を同時に考えてみる

ではここまでに考えた排水と流入を合わせた場合はどうなるでしょうか。

1分あたりで60[L]の水が無くなり、30[L]の水が増えるので、

あわせると1分間で30[L]の水が無くなる計算になります。

よって300Lの浴槽から水が無くなるまでの時間を計算すると、

300[L] / 30[L/min] = 10[min]となり、

10分後に浴槽の水が全て無くなる計算になりますね。

排水量は本当に一定なのか?

ちょっと待ってください。実際に浴槽に水を流してみると…

水が完全に空っぽになることはないのです。

実際にやってみると分かりますが、時間が経って浴槽の水面が下がってくると排水の勢いが段々小さくなることがわかります。

このことから水面が下がると排水量も下がってくることが予想できます。

実は、今回の排水の条件で、浴槽が5分で空っぽになるというのは、常に60[L/min]で排水されているのではなく、10分間で平均した排出量が60[L/min]になるということです。

車でどこかに行くときに、30[km]の場所に、1時間で着いたからといって、常に30[km]で運転していた訳ではないということに少し似ていますね。

水の流入と水の排水を同時に行なっていれば、いつか流入量=排出量となる水面の位置が存在するということになります。

ではなぜ水面が下がると排出量は下がるのか?

水面が下がると水の排水量が小さくなる原因を流体力学的に解説していきましょう。

流体のエネルギーについて考えると分かりやすいです。

流体というのはなんでもいくつかエネルギーをもっています。

大雑把に言えば
圧力のエネルギー
流速のエネルギー
位置のエネルギー
です

それらは1つの流れの中(流線上)では常に一定になります。

この関係をベルヌーイの定理と言います。

先ほどの浴槽の例に当てはめて考えると、

水面付近にある水のエネルギーは、圧力=大気圧\(P_0\)、流速はほぼ\(0\)、水の高さは排水穴から\(H\)の箇所にある為、それぞれ下記のように表すことができます。

圧力:\(E_{p0}\)
流速:\(0\)
位置:\(E_H\)

一方排水穴の水のエネルギーは、圧力=大気圧\(P_0\)、流速は\(V\)、水の高さは\(0\)である為、それぞれ下記のように表すことができます。

圧力:\(E_{p0}\)
流速:\(E_V\)
位置:\(0\)

求めたエネルギーの関係を確認してみると、圧力のエネルギーは水面と排水口では変化しておらず、位置のエネルギーが全て流速のエネルギーに置き換わっていることがわかります。

よって、水面の位置が低くなれば、それだけ出口での流速のエネルギーも少なくなっていく為、排水量は減っていってしまうのです。

これまでの過程を数字で数式で表してみる


今までの内容を数式を用いて説明してみましょう。

水面高さ\(H\)の浴槽があるとすると、排水口の出口での流速は

\[V=\sqrt{2gH}=4.427×H^{\frac{1}{2}}\]

この式をグラフで表すと下記のようになります。

排水が進んでいき、\(H\)が小さくなっていくと、\(V\)も小さくなっていき、排水量が少なくなっていくことが分かります。

いつか

流入量 \(=\) 流出量

となるタイミングが訪れるのです。

まとめ

いかがでしたか。

お風呂の水が無くなりそうと思ってしまいますが、流体力学でそんなことはないと説明することができました。

本ブログでは他にも沢山の流体力学に関する記事を執筆しています。

誰にでも分かりやすくを心がけていますので是非ご覧になってください。